ここからはインダス川ではなく、別の川に沿って登っていく。
マイナーロードの割にはよく維持されていて走りやすく、その上車の量がめっきり減って静かになった。
これはいい道。
ここでインド人のムニッシュと出会い、一緒にツォ・モリリに向かうことになった。
ムニッシュはデリー在住で、毎年ラダックにサイクリングしに来るらしい。
彼は僕よりもずっと若く、体格も良く、荷物も少ない(僕の半分以下?)のだが、ペースは僕より遅く、ゆっくりゆっくり進む。
ムニッシュは典型的なインド人と言えるかな。
高等教育を受けた富裕層だが、性格はルーズで楽観思考、自分の発言に一切責任を持たずに平気で口からでまかせを言う。
神経質で遠慮がちで孤独を好む僕とは、まるで異質だ。
以前、「インドの貧しさにはアフリカの貧しさのような悲壮感がない」と書いたが、金持ちであれ貧民であれ、インド人全体に共通する「こういう感じ」が、不幸を感じさせないのだ。
本当に貧困に苦しんでいる人からは「冗談じゃない」と言われるかもしれないが、僕はかれらの強靭な精神をポジティブにとらえて称賛しているのであって、決してバカにしているわけではない。
ムニッシュの英語はとても聴き取りづらい。
日本人に言われたくないよ、と思われるかもしれないが、独特の発音で早口でペラペラしゃべるので、僕は彼の話の8割以上は理解していない。
でもとてもおしゃべりな人で、僕がついていけていないことなど一向に気づいていない様子で、ずっとひとりでしゃべり続けている。
そして、僕の英語は彼に通じにくい。
正確に明確に発音しているつもりなのだが、一発で通じたためしがなく、何度も「ア?」と聞き返される。
ここまで通じ合えないと、発音だけでなく文法規則や使用単語も違っているんじゃないか、と疑ってしまう。
お互いに、「こいつの英語はおかしい」と思っているかもしれない。
でも、インド人に限らず非ネイティブの人で、独自の英語、少なくとも僕が学校で習った英文法にそぐわない英語を話す人は、今までいくらでもいた。
かれらの英語が必ずしも間違っていると言えるだろうか。
逆に、自分の英語が正しいと言えるだろうか。
日本人同士でも、人によっては何を言っているのかわけがわからなかったり、意思の疎通が困難なことってけっこうあるから、相性とかいろいろあるんだろうな。
ナムシャン・ラ(標高4800m)。
キャガル・ツォ(標高4500m)。
「ツォ」は「湖」という意味。
ここで一時雪。
ツォ・モリリが見えてきた。
ゴツゴツの石だらけ、ひどい未舗装。
僕の方が荷物が重い分、石と砂に弱く、ここではムニッシュより僕の方が遅い。
ある程度差が開くと、ムニッシュは僕を待っていてくれる。
ツォ・モリリ(標高4500m)。
湖畔で唯一の村、コルゾクにたどり着く前に日が沈んでしまった。
この日はわずか60kmだったが、標高4800mの峠越え、絶景で写真撮りまくり、ひどい未舗装、おまけに一度道を間違えた。
最後の数kmは、暗闇の中を進んだ。
19時半ぐらいだっただろうか、やっとたどり着いたと思ったら、村の手前でまたチェックポストがあった。
ムニッシュもパーミットを提出していた。
どうやら外国人だけでなく、インド人でさえもパーミットが必要のようだ。
すみません、勘違いしていました。
コルゾクは小さな村ながら、多数の宿があるのだが、この時は真っ暗で周囲の情況がまったく見えておらず、とにかく最初に現れた宿に飛び込んだ。
ふたりともヘトヘト。
ムニッシュが中に入って宿の人と話をつけ、その間僕は自転車を見張る。
これは暗黙の了解、と思っていた。
宿の中には小さな食堂があり、ムニッシュは食堂の椅子にドカッと座り込んだ。
「中に入ってこいよ! チャイを飲もう!」
「・・・いや、自転車を見張ってるんだけど。」
「ア!? 何言ってんだよ? カモン! 早く!」
宿の人も、「ここは大丈夫だよ、まずはチャイを飲みなさい」と言う。
僕は少々強めの語気で「まずは自転車と荷物を置ける場所へ案内してください!」と言った。
するとムニッシュが立ち上がり、イラ立った様子でこちらまで来て、「Don't worry! No problem! 早く中に入れ!」と意地でも先にチャイを飲ませようとする。
ここで軽くケンカ勃発。
「危険な国では、どいつもこいつも同じことを言うよ! 『ここは安全だ、Don't worry! No problem!』ってな。だから危険なんだ。安全な国では、皆こう言ってくれるよ。『外は危険だから、中に入れなさい。』って。だから安全なんだ。盗難はどこでも起こりうるし、実際盗まれたこともある。もしここでなにか盗まれたら、おまえ弁償できるのか? インドでは手に入らない物もたくさんあるぞ。少しは自分の言葉に責任を持てよ。責任だよ、意味わかるか!?」
するとムニッシュは、「デリーのような都市なら盗難もあるけどこういう村では・・・」と的をはずした反論を始めたので、僕はそれを遮ってそれ以上しゃべらせないようにし、自分の自転車と荷物だけ中に入れ、こいつのは外に放置した。
ムニッシュは常に「オレがオマエに教えてやる」という上から目線の発言をするが、安全かどうか、気をつけるかどうかは自分で判断することであって、他人から、それも今日出会ったばかりのヤツから指図されるおぼえはない。
盗まれないにしても、インドでは次々に自転車に人が群がってきて、勝手にライトを点けたりギアを変えたりベルを鳴らしたりする、これは100%だ。
インド人のおまえはそんなことは気にもとめないだろうが、そのインド的感覚を万人に当てはめるのは間違っている。
だいたいこの旅を実現させるのにどれだけの時間と労力をかけたことか。
軽々しく発せられる「Don't worry」という言葉に、しばらくムシャクシャしていた。
Manali, India
2013年10月13日日曜日
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彼らも悪気があっての訳じゃない、から余計始末が悪いのか。。。
返信削除毎回彼らとのふれあい?を読むたびにそう思います。
久々の更新。自転車復活後も順調に走り倒しておられるようで安心しました。
郷に入っては、と言いますが、やはりこちらの自己主張もすべきであって、ムシャクシャしながらもこういう衝突を面白いものだとも感じています。
削除しばらく街がなかったのでネットできませんでしたが、ラダック走行も終え、今後しばらくはふつうのインド走行となりそうです。
いろいろあったもんな・・・
返信削除実体験が全てだよ。
No problemなわけが無い。
更新頻度が復活してきたので安心した。
自転車に鍵をかけようとすると、「そんな必要はない」って止めようとする人さえいる。
削除他人の安全対策をどうしてやめさせようとするのか、不思議だ。
「こんな自転車誰も盗まねえよ」ともとれるので失礼だよな。