2013年8月11日日曜日

スリナガル

標高1600m、まだ暑いけど酷暑ではない。

ダル湖。




湖上には、「ハウスボート」と呼ばれる1200もの家屋が浮いており、その多くは旅行者用のホテルになっている。
















客引きが次々と群がってくる。
この無数の宿、近づいてひとつひとつ吟味することもできないので、適当な客引きに言われるがままについて行った。











なんと、家だけでなく売店やレストランまである。


湖上に街が成立しているのだ。

ここにひとつの家族が暮らしている。


ホテルというよりはホームステイに近い。

部屋は立派。


電気、水道、トイレ、シャワー、扇風機、必要な物はそろっている。

建物は浮いているわけではなく、杭で固定されているようだ。
でも誰かが歩くとけっこう揺れる。
ここの主人(かれらは「Houseboat Owner」と自称していて、一応それを証明するカードを所持している)のお父さんがこの家を建てたそうだ。

この湖上の家に生まれ、ボートで学校に通い、どこかで結婚相手を見つけてきて、家庭をつくり、ここで人生を終える。
なんかひとつ物語が書けそうだ。

見たところ、この家にはボートが2隻しかない。
人数分のボートがない限り、自由に出歩くこともできないのか。

この地域は、住民のほとんどがムスリム。
ムスリムということは、パキスタンへの帰属を望んでいるのかと思いきや、かれらはパキスタンのことは嫌いで、インドのままでいいと考えているようだ。

お母さんと、娘がふたりいるが、写真は撮らせてもらえない。

はっ・・・!
ラマダンはもう終わったのだろうか?
聞いてみたら、まだ終わってない、3日後に終わる、と言われた。
しかし心配無用、パキスタンとは違って街のレストランは昼間も営業している。

今までのインドの食文化と違う。

こんなパンはなかったし、ミルクティーでもない。

この家は岸から離れた奥まったところにあるので、クラクションが聞こえてこないのがメリットだが、代わりに大音量のアザーンが轟く。
昼夜を問わずかなり長時間騒いでいるので、アザーンとは違う別の何かかもしれない。
モスクも湖上にあるのだろうか?







ここのオーナーも家族も、礼儀正しく親切にもてなしてくれるが、この土地の人はちょっと商魂が強すぎる。
オーナーはしきりに、「ビューティフルなプレイスがたくさんあるから連れて行ってあげよう、ノープロブレム、写真を見せてあげよう、きれいだろう、えっ、行きたくない? ノープロブレム、じゃあ明日はゆっくり休んで、あさってどこどこへ行こう、ノープロブレム・・・」となにかと誘ってくるので、気分が萎えてしまった。

パキスタンからずっとなのだが、それなりに観光がさかんな街に滞在すると、必ずと言っていいほど宿の人から、ツアーやらトレッキングやら街歩きのガイドやらに勧誘される。
宿代が安い分ツアーで稼ぎたいというのもわかるが、もちろん僕の性格上ツアーにはまったく惹かれない。
強くアピールされるほど、行く気失せる。
観光は自分の足で、自分のカンで、あくまで自由にやりたい。
やむをえない事情がない限り、誰かに連れて行ってもらうなんてまっぴらだ。
ラホールでも、出発する前夜に宿のマネージャーと話をしていたら、「君はラホールフォートを見に行かなかったのか!? ラホールに来てラホールフォートを見ないなんて! なんてことだ。ラホールには見るべきところがたくさんある。だから我々が見どころをガイドしてあげるって言ったのに。ああ、残念だ。」と言われた。
僕が最も拒絶反応を起こす思考法だ。
そんなもん見なくていい、自由にやらせてくれ。

それから、長旅、特に自転車による長旅、という概念がない。
インドにいる旅行者はインドだけを旅行し、パキスタンにいる旅行者はパキスタンだけを旅行するものだと思っている。
僕が南アフリカからの自分の旅の概要を説明した後、「ふうん、それで仕事は何してるの? いつ日本からインドに飛んできたの? 何日滞在していつ日本に帰るの?」と言われたりして、ああこれは無理だ、と悟る。
長旅という概念を理解できないから、かれらはその土地の名所を全部見させようとしたり、大金を使わせようとしたりするのだ。
僕は名所よりも、適当に街をぶらついているだけの方がよっぽど驚嘆するシーンが見れて面白いと思うのだが、かれらにしてみればそれはごくありきたりの日常風景なので、僕の観光方法は理解しがたいのかもしれない。
あと、僕の場合は自転車移動中が旅のメインなので、街に着いたらどちらかというとダラッとしていたいので、あまりあれこれ言われたくない。

翌朝、土産物をどっさり積んだボートが家の前に来ていた。
僕がバルコニーに座ると、男が降りてやって来て、僕の前で宝石を並べ始めた。
はあ・・・もううんざりだよ。
こんなもん買うわけないだろ。

おそらく、ハウスボートの中に情報ネットワークがあって、今日はここの宿に客が来ている、というのが知られてしまっているのだろう。

オーナーはオーナーで、「カシミールティー欲しくないか? 欲しいなら買ってきてあげるよ。」
「お茶か、いいね。・・・で、いくらなの?」
「30gで2500ルピー(3952円)。」
いいかげんにしろ、ショッピングしに来たんじゃねえんだ。

街に出かけるには、オーナーにボートで送ってもらわなければならない。
戻ってくる時間とゲートナンバーを確認して、オーナーの名前と電話番号もメモしておく。

湖畔を歩いていると、また客引きが群がってくる。
ボートに乗れだの、リキシャーに乗れだの、マリファナを買えだの。
落ち着いて風景を楽しむこともできない。

エジプトを思い出した。
アラビア語で「船」のことを「ファルーカ」というのだが、ナイル川沿いを歩いていると客引きが「ファルーカ! ファルーカ!」とハエのように群がってきてうっとうしいことこの上なかった。
ふと宿のオーナーの名前のメモを見たら、「ファルーク」と書いてあったので吹き出してしまった。

スリナガルに来てから、ぼったくりの匂いがプンプンする。
オーナーのファルークも、最初に言っていた宿泊費から、食事代だのなんだので、どんどん料金を上乗せしようとしてくる。
宿泊費は最低限におさえて、オプションを割高でふんだくろうという手口。
ガメツイやつらだよ。
用心しよう。



















夕方、宿に戻ると、荷物が開けられた形跡があった。
オルトリーブバッグすべて、中の物の配置が明らかに変わっていたので、すぐに異変に気づいた。
幸い、何も盗られてはいなかった。

十中八九、これは子供の仕業、それも14歳の息子の仕業だ。
おそらく、前の晩に見せた僕のiPadか何かの電気製品で遊びたくて、物色したのだろう。
こんなこともあろうかと、僕はいつも大事な電気製品はすべてリュックに入れて外出する。
もっとも、iPadもラップトップもパスコードをかけてあるので、手にしたところで何もできはしないだろうが。
今は夏休み、子供たちはやることもなく死ぬほどヒマそうにしていたし、他人の物を勝手にいじることに何の躊躇もないインド人の性格からも納得できる。
物色したはいいが忠実に元通りに戻せない甘さも、いかにも子供らしい。
そしておそらく、こういったことは家族も公認なのだろう。
盗むのはヤバいけど、ちょっと拝借して戻しておく分にはいいんじゃない、ぐらいの感覚。

ハウスボートに泊まるということは、こういったリスクがある。
宿泊者は自力で行き来できないので、いったん出かけたら不意に戻ってくるということはない。
家の中にいる時も、かれらの手のひらの上にいるような、とても不利な状況を感じていた。
チェックアウトして自転車と荷物とともに無事に岸まで送ってもらうまでは、家族との摩擦は避けるようにしようと意識した。

そんなこんなで、僕はとてもここに長居する気にはなれず、2泊で撤退した。
一方、ファルークと家族は脳天気なもんで、僕が気分を害していたことなどまったく気づいていない様子で、「旅行者に会ったらここの宿を薦めてくれよ!」と最後まで笑顔だった。

絶対お薦めしない。


Kargil, India

3151km



5 件のコメント:

  1. インドに行ったら船上宿には泊まらないようにします(^^;

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    1. ここではほんと「カモ」としてしか見られてなかった気がする。

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  2. そういう事か。

    油断大敵だ・・・

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  3. 2009年 シュリナーガルのハウス・ボートに4泊しました。
    一泊600ルピーで朝・夕飯つき。
    値切ろうとすると、オーナーが言いました。
    「これ以上安くしたら、毎日しつこくいろんなツアーをすすめたりしつこくするよ」
    言葉通り、これ以上値切らなかったら、何も起こりませんでした。
    信用できる宿でした。
    飯もビハールから来たコックがつくってくれて、おいしかったな。

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