2011年10月15日土曜日

内と外

この旅を始める以前は、黒人というものに対して少なからず恐怖心があった。
野生的で、筋肉ムキムキで、口より先に手が出そうな。
貧弱で武器も持たない日本人などは、狙われたらなすすべもない。
ケープタウンに着いて、現実にこのブラックワールドを目の当りにした時は、けっこうビビったものだ。
でも実際かれらに近づいてみると、かれらは自分たちが怖がられているという自覚は持っていないことがわかる。
考えてみりゃそうだ、黒人だらけで、黒人であることが当たり前の世界だから、
黒人=怖いという認識が生まれるはずもない。

むしろ逆に、かれらは白人や東洋人などの外国人を恐れているフシがある。
かれらはしばしば、僕を
Bossと呼んだり、SirとかMisterを付けたりする。
ふつう、ただの旅行者にこんな敬称を使う必要はない。
ちょっと相手をおだてて、持ち上げて、金をせびろうとする輩もいるが、僕が感じるのはそうではない。

かれらには、強いコンプレックスがある。

15、16世紀にヨーロッパによるアフリカ開拓が始まって以来、黒人たちはずっと被支配者であり続けた。
民族としての黒人が歴史の表舞台で活躍したことはないし、世界の覇権を握ったこと
ない。
アメリカへは、人としてではなく奴隷として
輸出された。
1960年代に植民支配が終わり、独立してもう半世紀がた
というのに、いまだ黒人国家で経済的に成功した例はひとつもない。 
いつまでたっても自分たちは貧しいまま。支配されたまま。外国人は雲の上のような存在。
そんな悲壮感がある。

実際、先進国との経済格差はとてつもない。

僕が宿泊しているいわゆるバックパッカーズホステル兼キャンプ場は、おもに白人の長期旅行者がたくさん集まる安宿で、ここだけ異空間な感じになっている。
ジャンル的には貧乏旅行者だが、もちろん現地人から見れば大金持ちだ。
こういう長期旅行を実現させるには、数十万~数百万円の資金が必要になる。
今の旅行者は皆ノートパソコンを持っている
(僕もほしい)。
ここはWi-Fiフリーなので、夜はネット三昧。

でも一歩この敷地から外に出れば、スクラップ同然の日本の中古トラックや中古ハイエースに、黒人たちがありえないぐらいぎゅうぎゅう詰めになって乗っていたり、足の不自由な人や目の見えない人が道端で一日中手を差し出していたりする。

旅行者たちは、日々の物乞いや押し売りに
少々うんざりしている。
でもこの敷地内にいれば、たかられることもないし、盗まれることもないし、
アズング~とかチャイナ!とか言われることもない。
自分と似たような経済力、教養、常識、礼儀、マナーを共有できる。
だから、外国人同士で変な仲間意識が生まれる。
外で黒人に話しかけられたら
Sorryの一言で一蹴するが、外国人同士なら、握手して互いに自己紹介する。
これは人種の壁ではなく、経済の壁だ。

なんだかくだらない。

アフリカ旅行とは何なのか?
世界旅行とは何なのか?
異文化の人をものめずらしい目で見て、写真を撮ってチップを払って、それでおしまいか。

下心なしで、僕に話しかけてくれる黒人も多い。
ちょっと仲良くなってしまうこともある。

明日も会えるかななんて言われることもある。
でも、仲良くなることはできても、かれらの世界に溶け込むことはできない。
経済の壁は厚い。

黒人は
よく歌を歌う。
道行く人も、働いている人も、宗教の集会でも、恥ずかしがることなく大きな声で歌う。
僕は足を止めてその歌声に聴き入り、泣き出してしまいそうになることがある。
この湧き上がるようなパワーは何だろう?
くだらないことすべてを吹き飛ばしてしまうような、生きる力。

同じ人間。

僕の旅も、もしかしたらくだらないただの道楽なのかもしれないが、このパワーを感じとることができただけでも、アフリカへ来た甲斐があったと思う。

この力に、この土地に、せめて敬意を払いたい。



Lilongwe, Malawiにて